東日本大震災復興支援麻雀大会 フェニックスオープン

第2回フェニックスオープン決勝観戦記

「男の子はね。強くならなきゃいけないんだよ。
お嫁さんと赤ちゃんを守らなきゃいけないんだってパパが言ってた!」
幼稚園に一緒に通っていた、幼なじみの慎吾くんが言っていた言葉を思い出した。

そう。男の子は強いんだ。

フェニックスオープン決勝。

誰が1番強いのか?いや。そうじゃない。
ここまで勝ち上がってきたのだ。それだけでも十分じゃないか。
決勝戦の舞台で、4人はどのようにその強さを表現してくれるのだろうか?

高ぶる気持ちを抑えながら開始の合図を待った。

金原正雄さん。+262.9
フェニックスオープン本戦で常にトップを走り続けたポイントリーダー。
チャンピオンロードでの優勝経験もあり、スプリント戦での戦い方を熟知しているのだろう。
現状の順位に甘んじることなく、攻めの姿勢で、準々決勝・準決勝とさらにポイントを加点し続け、決勝の舞台へ。
このままゴールまで走り続け、完全優勝なるか。

藤原哲史プロ。+199.6
日本プロ麻雀協会C2リーグ所属。
麻雀に対しての真摯な姿勢と温厚な笑顔で皆に慕われている藤原プロ。
文才にも長けていて、第9期10期の女流雀王戦の観戦記も担当している。
彼の人柄と優しさが伝わる文章なので是非読んでいただきたい。

>>第9期女流雀王決定戦 観戦記
>>第10期女流雀王決定戦 観戦記

藤原プロらしい懐深い打ち筋を、この決勝でも魅せてほしいところ。

外山淳一郎さん。+167.3
準決勝のトップ条件をクリアーし、決勝の舞台へ。
「すごいですね!」と声をかけた私に「いや。でも、同卓だった金原さんが2着のまま終わってしまったので、ポイント差をあまり縮められませんでした」と一言。
狙っているのは決勝の舞台じゃない。見ているのは優勝だけなんだ。
真っ直ぐに、これから自身が座る決勝戦の卓を見つめる視線が、そう物語っていた。

大橋正幸さん。+140.4
チャンピオンロード決勝卓の常連。優勝経験もあり、第2回のグランドチャンピオン大会のファイナリスト。
準決勝で痛恨のラスをひくも、それまでの貯金で決勝へ。
決勝戦を前にしても、緊張している素振りは微塵も感じさせない。
条件は厳しいが、きっと何かやってくれるだろうと誰もが期待していた。

 

まずは条件を確認しておこう。

藤原プロ
金原さんとトップ−4着なら無条件、トップ−3着なら3500点差、トップ−2着なら23400点差。
2着−4着なら23300点差(外山さんが3着であること)を埋めると優勝。

外山さん
金原さんとトップ−4着で15600点差、トップ−3着で35600点差を埋めると優勝。

大橋さん
金原さんとトップ−4着で42500点差(藤原プロが3着であること)を埋めると優勝。

金原さん
以上の条件を満たされなければ優勝。

まずは3人で少しでも金原さんのポイントを減らしたいところ。

座順は東家から
大橋さん−金原さん−外山さん−藤原プロ

東1局 ドラ

藤原プロ
 ツモ
タンヤオ七対子のイーシャンテンではあるが、場に2枚切られているを見て「待ってました!」とばかりに打
誰が見てもアガれそうな、しかし親の大橋さんがリーチ。
大橋さんの捨て牌にあるを頼りに外山さんがを切る。
時間打ち切りのあるこの決勝戦、本来ならば有利なはずの北家は南場の親が回ってこない可能性がある。
早く局を回したい藤原プロだが、六を勝負するのは無謀だと思ったのだろう、ここはスルー。
一発で引かされたを手の内に収めの対子落とし。
次巡に引いたに「そうですよね」と言わんばかりに小さく頷き、聴牌を組み直そうとするが、大橋さんがツモって1300オール。

東1局1本場
大橋さんが仕掛けて1000オール。

大橋さんは、とにかく親番で連荘するイメージがある。巧みな仕掛けも多く、いつも強気でアガりに向かう。
現状1人だけ条件の厳しい大橋さんだが、そんなことは全く感じさせない。
「何?60000点?70000点?親番1回で十分だね」
今にもそんな声が聞こえてきそうな前向きな姿勢。どんな条件であろうと絶対に諦めない強い意志。
遠くに僅かに見える小さな光に向かって、立ち止まることなくサンダルで走っていく。
大橋さんの大きな瞳は、最後まで真っ直ぐに前を見続けていた。

東1局2本場 ドラ
ここでも大橋さんが先制リーチ。
リーチ宣言牌の五を藤原プロがポン。ここが勝負所か。
2人の一騎打ちになるかと思った次巡、金原さんがリーチ。
金原さん

数巡後、3人の共通安全牌がなくなった外山さんがで放銃。裏は乗らずで2000は2600。

冷静に考えてみてほしい。
ここでこのリーチを打てる人がどれだけいるだろうか。
トータルトップのポイントを持ち、2位からのドラポンと親のリーチに挟まれたこの状況での役あり聴牌。
とりあえず聴牌はとる、でも危険な牌を引いたらオリる。そう考える人のほうが多いだろう。
しかし、ラスにならなければ条件がグッと楽になるこの状況でも、金原さんは強気のリーチ。
そうか。金原さんはこうやって勝ちあがって来たんだ。
自分の手で大切に育て上げたこの13枚を、満貫に、跳満に、変身させてきたんだ。
「決勝だろうが関係ないよ。俺は俺の信じた麻雀を打つよ。」
そう語る金原さんの背中は、大きくて、強くて、たくましかった。

東2局 ドラ
8巡目の藤原プロ
 ツモ
三色と一通、後のの出やすさ、全てを見てのツモ切り。
手役と打点を追う藤原プロらしい一打。
しかし次巡に引いたのは裏目の。ここで「しまった」なんて顔は一切せずに飄々と打
裏目をひくことなんていくらでもある。そこで「しまった」とか「流れが悪いな」と思う人もたくさんいるだろう。
それでも「そんなこともあるよね」と、数秒前となんら変わらない温厚な顔つきの藤原プロ。
その次巡には一発ツモだったをツモ。平然とフリテンリーチ。そして、少しはにかみながら一発でそっと手元に置かれた。2000・4000。

東3局
大橋さんが金原さんから満貫の出アガり。
金原さんがラス目になり、全員の条件が現実味を帯びてきた。

東4局 ドラ
藤原プロが丁寧に仕上げた平和・純チャン・三色

しかし、安目のだと2900点。しかも、ドラ表示牌がなので高目は残り1枚。
良い単騎があれば待ち変えをしようとヤミテンを選択。

その次巡、北家外山さん
 ツモ
これまで全く手が入らなかった外山さん。これをアガれば優勝争いに参加できる。
ドラが対子になり、タンヤオも追加されて打点も十分。
しかし、切ったに声がかかる。
「ロン。18000」
誰がこの放銃を回避できるだろうか。やっと戦えるようになったところでの大きな大きな放銃。
「どうして僕が・・・」そう思って不機嫌になってもおかしくないだろう。
それでもゆっくりと1度頷き、藤原プロの前に点棒をそっと置いた姿は立派だった。
きっと外山さんはわかっていたんだ。麻雀というゲームの理不尽さを。
自分だけ恵まれない決勝戦で、それでも最善の一打を選び続ける。
「いつか自分が勝てる日まで・・・僕は僕であり続けます」
黙って全てを受け入れて、自分のパワーに変える強さ。
いつか外山さんの、心から笑う顔が見たい。
この状況としっかり向き合おうと、唇を噛み締めて下を向き、点箱を見つめる姿を見てそう思った。

南1局 2本場 ドラ
大橋さん最後の親番。大きな瞳がさらに大きくなる。
しかし、少し俯きながら配牌をとった西家外山さんの2巡目。

4巡目にはを引き入れ、顔を上げてリーチ。
安牌のない金原さんが一発でを切り放銃。6400は7000。
これで藤原プロが圧倒的に有利となった。

南2局 ドラ
1万点台の金原さんは、とにかくここで加点したい。
しかし、不死鳥はゆっくりと顔を上げよみがえる。
外山さんがリーチ

序盤から持っていたのカンツ。点棒が無いからと早々にカンをせずにこの手に仕上げた。
そしてよみがえった不死鳥に神様からのプレゼント。ツモ裏ドラ3000・6000。

南3局 ドラ
金原さんが10巡目、決意のリーチ。不死鳥は1羽じゃない。

とりあえずヤミテンにする人もいるだろう。藤原プロから出たら万々歳だ。
でも金原さんの選択はリーチ。ツモって跳満、2枚以上裏が乗れば倍満。
たった1半荘しか見ていなくても、観戦者は皆わかっていた。これが金原流。

しかしここにも不死鳥が。
藤原プロが一発で切った現物のを、まだまだ諦めない大橋さんがチー。も勝負し、ピンズのホンイツで真っ直ぐにアガりに向かう。
これで、なんと本来ならば一発ツモだったが下家の外山さんに喰い流れた。
聴牌をとるには使えない。まだまだ諦めたくない外山さんがそっと河に置いて8000。

南4局 ドラ
金原さんと大橋さんは、お互いに跳満直撃条件。
外山さんは藤原プロから役満直撃条件。

配牌からオリようと藤原プロが第1打に切ったドラのを大橋さんがチー。
後にをカンツにした大橋さんが暗カン。祈る気持ちでめくったカンドラは2枚切れの
 暗カン チー
リンシャンからツモったで聴牌するが打
その後、条件を満たせないまま16巡目、金原さんがリーチ。

大橋さんには切れない。でも、流局すればゲームセット。
僅かな望みを託して最後のリーチ。そして流局。

 

大会終了後、ツイッター上でこんなつぶやきを見つけた。
「藤原プロと予選、本戦と対局させていただいて、とても感じの良いかただったので、優勝されて私も嬉しく思いました」
それまで面識のなかった一般の麻雀愛好家の方に、こう言ってもらえる藤原プロはプロの鏡だと思う。

 

再来週、第一子の女の子が産まれる予定らしい。
働くサラリーマンであり、一家の主であり、父親でもある藤原プロ。
同世代の他のプロに比べて、麻雀牌に触れることのできる時間は少ないはずだ。
それでも麻雀を愛し、真摯に向き合い、その姿勢が今日の優勝に繋がったのだろう。

震災復興支援のチャリティー大会として始まったフェニックスオープン。
藤原哲史、この大会にふさわしい「優しい男」がチャンピオンになった。

そういえば実家の父が言っていたな。
「お母さんとお前たちがいるから、お父さんは頑張れるんだよ」

そう。男の子は強いんだ。
守るべきものができた時、人は強くなれるんだ。

 

新米パパ。優勝おめでとう。


(文・大崎 初音)

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